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天保十二年のシェイクスピア(2020年)感想とあらすじ※高橋一生/浦井健治/唯月ふうかさん出演

日生劇場へ天保十二年のシェイクスピアを観てきました。

面白かったー!

内容を全く知らず劇場へ向かい

なぜ天保十二年?
シェイクスピアなのに時代劇っぽい?

と思いつつ観劇し、パンフレットを読んだのもありますが、初見でもよくわかる内容でした。

乱暴な言い方すると、「天保水滸伝」という実話の任客抗争話を元に綴られたストーリーに、シェイクスピアの37の戯曲を詰め込んだパロディのような舞台。

大人の冗談

といって良いのかわかりませんが、舞台ってこういう楽しみ方もあるのね、という驚きがありました。

登場人物が多い上に1人2役、3役と担うので話についていけるのか不安でしたが、非常にわかりやすい内容なのは、井上ひさしさんの脚本が良いのか、演出の藤田俊太郎さんの力によるものか。

井上ひさしさんが「むずかしいことをやさしく やさしいことをふかく ふかいことをおもしろく」を信条にしていたそうなので、井上ひさしさんの力が大きいのかもしれないです。

初めて舞台でみる悪人役の高橋一生さんは、声の通りが素晴らしく、悪人の業を背負った悲しみとあきらめが、その佇まいから漂ってくるよう。

ミュージカル俳優さんを多く起用されていた為か、歌唱部分も圧巻で、舞台上に登場するバンドが奏でる、宮川彬良さんのおしゃれな音楽を心から楽しめました。

目次

天保十二年のシェイクスピアのあらすじ

主な登場人物&キャスト


よだれ牛の紋太一家 代官手代の花平一家
お文(長女:樹里咲穂)
紋太(お文の夫:阿部 裕)
蝮の九郎治(紋太の弟/お文の愛人:阿部 裕/二役)
王次(お文と紋太の息子:浦井健治)
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お文にそそのかされた九郎治が、紋太を殺す
------------------------
お里(次女:土井ケイト)
花平(お里の夫:玉置孝匡)
幕兵衛(お里の愛人、花平に仕える:章平)
三世次(醜い無宿者。お里・幕兵衛に仕える:高橋一生)
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お里にそそのかされた幕兵衛が、義父の十兵衛と花平を殺す


語り/隊長(木場勝己)
鰤の十兵衛(お文・お里・お光の父親:辻萬長)
お光/おさち(お光→三女、おさち→新代官の妻:唯月ふうか)
佐吉(棺桶屋:木内健人)
浮舟太夫/お冬(浮舟太夫→佐吉の恋人、お冬→王次の許嫁:浮舟太夫)
清滝の老婆/飯炊きのおこま婆(梅沢昌代)

ストーリー

下総の国清滝村ー

年老いた父親(鰤の十兵衛:辻 萬長)は、娘3人のうち、自分の跡継ぎとして誰が相応しいか決める。

腹黒い長女(お文:樹里咲穂)と次女(お里:土井ケイト)はおべっかを使い父に取り入るが、父親の一番のお気に入りで心優しい三女(お光:唯月ふうか)は、父への想いがつのり、上手な言葉が出てこない。

そんな三女に父親は憤慨し、お光を家から放り出してしまう。

・・・・・

月日が流れ、父親の跡を継いだ長女のお文は、よだれ牛の紋太一家を名乗り、次女のお里は代官手代の花平一家を名乗っていた。2人とも以前のおべっかはどこやら父親への冷たい態度を隠そうとしない。

2人とも自分が力を掌握しようと、お互いをつぶすチャンスを絶えず狙っている。

長女のお文は、亭主の紋太(阿部 裕)をけしかけて、また次女のお里は亭主の花平(玉置孝匡)をけしかけて、相手の亭主を消してしまおうともくろむが、紋太も花平も妻とは違い平和主義。妻の要求には尻込みしている。

夫の野心の無さに愛想をつかした妻たちはコトを起こす。

長女のお文は、夫・紋太の弟であり、自分の愛人の蝮の九郎治(阿部 裕/二役)に夫の紋太を殺させる。

次女のお里も、愛人の幕兵衛(章平)に夫を殺させようとするが、章平は誤って、お文とお里の父親、鰤の十兵衛を殺してしまい、その後、花平も手にかける。

・・・

そこへ現れたのが、醜い顔と体、歪んだ心を持つ無宿者の佐渡の三世次(高橋一生)だった。

三世次は、清滝の老婆(梅沢昌代)のお告げをうけ、清滝村を自分のものにしようと目論む。両家の争いに乗じ、言葉巧みに人を操り、次女のお里と幕兵衛に恩を売り、代官手代の花平一家の一員となる。

・・・・・

そこへ、長女お文の息子、きじるしの王次(浦井健治)が、よだれ牛の紋太一家へ帰ってくる。王次は、飯岡の助五郎(※)の元で渡世修行をしていた。

父親の仇をうつため帰ってきた王次は、てっきり父親は、代官手代の花平一家の誰かに殺されたと思っていた。しかし実は母とおじの策略で父親が殺されたと知り、2人への復讐を誓う。

混乱の中、賭博場へとやってきたのが、かつて父親に追い出された三女のお光。

お光は、笹川の繁蔵(※)の元に身を寄せていた。

(※)飯岡の助五郎、笹川の繁蔵は実在した人物で、両者の対立が当作品の元になった「天保水滸伝」に描かれている。

お光と王次は、それぞれの家が対立している仲だが、恋に落ちてしまう。

・・・

ある日、新代官が着任することになり、両家の争いはとりあえず手打ちとなる。

しかし新代官の妻が、お光と瓜二つだったことから、大惨劇が起こる。

天保十二年ってどんな年?

天保十二年は、歴史の授業でも習う「天保の改革」が行われた年。これは江戸幕府の老中・水野忠邦が主導した幕政改革です。

江戸は十一代将軍、徳川家斉の時代。

将軍の贅沢、天保の大飢饉などで財政が傾き、国内では食料不足から農民や町人が百姓一揆などの騒動を各地で引き起こしていました。

お隣中国はイギリスとアヘン戦争。ロシアなど外国船も日本の周りをうろつき、防衛力の強化に迫られ、幕府は「天保の改革」を強行し、恐怖政治で社会の動揺を抑えようします。

人々の生活を監視し、その矛先は多くの観客が集まる歌舞伎にも向けられ、天保十二年に歌舞伎小屋は郊外へ移転、翌年には江戸歌舞伎で人気を博していた市川團十郎を江戸から追放するまでとなりました。

民衆は、お上の横暴さに怒り寸前。

そんな世の中で幅を利かせてきたのが、任客のようなアウトローな存在です。

利根川流域で、笹川繁蔵、飯岡助五郎という任侠の世界に生きる任客の親分同士が長い間抗争し、その決着をつけたのが、天保十五年。この実話の抗争を描いた「天保水滸伝」という講談が当時人気を博します。

世間からはみ出しもののアウトローな2人を描いたこの作品に人々が喝采を贈ったことも、当時の幕府への不満の現れかもしれません。

感想

シェイクスピアを使えば、たいていはなんとかなる

上記のあらすじの通り時代劇ですが、随所にシェイクスピアの有名なシーンがちりばめられているので、シェイクスピアのモチーフを使えば、恋愛・陰謀・かたき討ちなど、どんな作品でも成立しちゃうんだなーと思えました。

だからこそ、井上ひさしさんは、「天保水滸伝」という江戸時代の講談とシェイクスピアを掛け合わせたのかもしれませんが。

シェイクスピアも、元々あった話を戯曲に用いたそうですが、

天保十二年のシェイクスピアの「もしもシェイクスピアがいなかったら」で歌われるように、

シェイクスピアがいなかったら、ウエストサイドストーリーもうまれなかっただろうし(ウエストサイドストーリーはロミオとジュリエットが草案)、出版社も演劇業界も、儲けが今より無かったかもしれない。

ただ、シェイクスピアを知っている=教養を試すのか?というと、そんな作品ではなくて、むしろばかばかしさとエロを詰め込んだ、大人向けの冗談といえる作品。

井上ひさしさんが、「天保十二年のシェイクスピア」を書いた1970年代、シェイクスピアを教養と有難がっていた風潮への皮肉もこめられているようです。

もちろん、ここぞという時に使われるセリフや流れから、井上ひさしさんが、シェイクスピアを熟知し、限りない尊敬を表した作品というのもよく伝わってきます(そこまでシェイクスピアを知らない私がいうのもなんですが)

「天保十二年のシェイクスピア」はシェイクスピアを知らなくても楽しめますが、知っていると楽しみが100倍くらいになりそう。

作品冒頭の、父親が娘たちに跡目を継がせるのくだりは、「リア王」

仕えていた主人を殺し、「眠りを殺した」という幕兵衛は「マクベス」。まくべえという名前がすでにw

対立する家同士だが、惹かれあう王次とお光は「ロミオとジュリエット」。思いっきり時代劇なバルコニーのシーンもあります。

きじるしの王次が復讐しようとするのは、父を殺した叔父とその叔父に惹かれる母。これは「ハムレット」。

高橋一生さん演じる佐渡の三世次は、「リチャード三世」「オセロー」のイアーゴ―といったシェイクスピア作品の悪役を集約させたような存在。

浦井健治さん演じるきじるしの王次は「ロミオとジュリエット」のロミオと「ハムレット」を背負い、唯月ふうかさん演じるお光とおさちは、「間違いの喜劇」から。

等々、これでもかとシェイクスピアが詰め込まれています。

キャストさんたち感想

主役の高橋一生さん。舞台を拝見するのは初めてですが、レミゼでガブローシュを演じられていた事はすでに知っていたので、謎の安心感がありました。

声が良く通り、全身から「悪」のオーラというのか、良心のかけらなど全くないのが伝わってきます。

積極的に悪にかかわっていくというより、根底にあきらめや悲しみがあり「悪」こそ三世次の存在意義と思えました。

背中が曲がって、こぶがあり、顔を黒く塗りつぶした姿は、ついノートルダムの鐘のカジモドを思いだしちゃう。

ただ、佐渡の三世次は恐らく一度も人から愛情を受けたことがないがゆえに、ねじくれていて、醜いのは外見ではなく彼の中身。この世も自分自身も憎んでいるだろうなと思えました。とても悲しい存在。

真逆だったのが、浦井健治さんのきじるしの王次。

出演するまでだいぶ時間があったけれど、浦井さんの王次が出てきた途端、ぱぁーーーっと明るくなりました。

言葉も動きも粗野で下品なものなのに、タダならぬ気品があるというか。

三世次と違って、人から愛され自分を愛する人間で、でも天真爛漫ではなく、彼の苦悩もあり、表情が行き来するのに目が離せませんでした。

浦井健治さん、何度も舞台をみているけれど、どの役も「浦井健治でありながら、その役にはまる」のがすごい。とても魅力的な役者さん。

お光とおさちの二役の唯月ふうかさん。

お芝居がほんと上手!ふうかちゃんの歌のうまさは知っていたけれど、この二役の切り替えが見事。

長女お文の樹里咲穂さんと次女お里の土井ケイトさんのお芝居にも引き込まれました。

自分の感情を隠そうともしない姿は人間というよりけだもの。テンポのよいセリフ回しですすむ両者露骨な嫌悪感に笑ってしまいました。

久しぶりの、阿部 裕さん(よだれ牛の紋太/蝮の九郎治)の美声、熊谷彩春さん(浮舟太夫/お冬)の可憐さんにもうっとり。

佐吉役の木内健人さんの透き通った演技、尾瀬の幕兵衛役の章平さんの堂々とした演技と怯えをみせる繊細さも印象に残りました。

あと、井上ひさしさんの作品におおく出ていたベテラン勢、梅沢昌代さん、木場勝己さん、辻萬長さん達の、そこにいるだけなのにオーラ漂う存在感!

力のある若い役者さんとベテラン勢が揃った、上質な大人のおふざけといえる舞台でした。

そして最高に良かったのが、宮川彬良さんの音楽!

時代劇ベースのこの作品がすごくおしゃれ。

バンドを舞台にあげて、時々みえるのも楽しかったです。

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